あの日と夜明け

カセットテープの時代から我が家の選曲担当は私と決まっていて、どこか遠出をするたびに私は頭をひねり、その日その時にふさわしい音楽はどんなものなのか考えてきたわけです。

今日は実家の両親と一緒に宮古へ。祖母を津波で亡くしてもう10年になります。あの頃は瓦礫と泥にまみれていた宮古市田老地区も、もうすっかり区画整備とかさ上げが終わり、昔の町並みは見る影もありません。それが安全な暮らしを象徴しているような、昔の姿を忘れてしまうような複雑な気持ちにさせられます。お墓を磨いていて、ふと顔を上げるとさわやかな青空が。

聞けば、先日のかなり大きな地震でさえあの時の余震というではないですか。この10年、あの時のような大きな地震がまた起きて、復興・再建途中の沿岸にまたも大津波が押し寄せる可能性だってあったわけです。大自然は時に私達にとても大きな試練を与えることもありますが、どこかで挑戦し続ける私達を見ているような…10年間よくぞ持ちこたえてくれたと、平和な(コロナ禍ではあるけど)青空の下でちょっと思ったのです。

珍しく助手席のわたしは今日も選曲担当。帰りはゆったりしたものが聴きたくなって、ノラ・ジョーンズの名作を。これ、聴いたことありますか?ちょっと前までは活動休止中だった(たぶん)ノラ・ジョーンズの初期の名作です。

Feels Like Home – Norah Jones

私が知ったきっかけは大学に入りたての頃にネットラジオからこのアルバムの「Sunrise」がゆるゆると流れてきたこと。ちょっとハスキー、だけど少しソウルフルなところがある歌声に雨だれのピアノ。夜明けのちょっとした背が伸びるような、空が刻々と変わっていく様を歌に閉じ込めたような曲です。

アルバム全体のバランスもよく、カントリー・ポップよりもちょっとリラックスできる構成。ノラ・ジョーンズがやりたいことがしっかりと表現できている佳作だと思います。

家族と話していて、最近思ったことを言葉にすることができました。「震災のこと、テレビでやったりしていて涙が出ることはあっても、おばあちゃんが死んだこと、遺体を見たりしたことは今でも悲しくない。不思議とそのことをいくら考えても感傷的にはならない。」と言ったら「俺はおふくろの遺体を見たあの時のことが記憶に無い」と父。だれもが自分なりに蓋をしたり、前を向いたりして、あの震災を「処理」しているのかもしれません。

もうすぐあの日がやってきます。当時は許すまじと嫌悪していた日ですが、今の自分を形作る大きな出来事です。自分が成すべきことは何か、そう考えるきっかけをくれたあの日。

今年も、3.11がやってきます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました