「『陰翳礼讃』礼賛」礼賛

テレヴィというのは(悔しいけど)時として自分をすっかり魅了して、心を掴んで離さない時がある。ある時は流行りのドラマをわくわく見るときもあるし、しょうもない(あるいは高尚な)バラエティを見て腹を抱えることもある。さてドキュメンタリーは、自分の思想やものの見方にまで手が届く力を持っているとつくづく。

何年前だったか(10年以上は前だ)、安藤忠雄の密着ドキュメンタリーを見た。それは私の中にあった造形や建築へのもやもやとした憧れを、クッキーの型を取るように彼が言葉にしていたのだ。そして、その背景にある彼の生き方に大変共感し、すっかり(遅ればせながら)ファンになったのである。

それから、自伝を買ったり、東京に行ったときには彼の作品(そう言っていいですよね)を訪れたり、極めつけは出張で東京に行ったときに都合を上手く合わせて彼のトークイベントにまでいったこともある。美術館の冷たい床にお尻の感覚が奪われながら、安藤先生が登場してからすっかり舞い上がってしまい、「わぁ」と声が出たことを覚えている。

そんな安藤忠雄がチャンネルを回していたら急に現れたのである。しかも、自分のMacの壁紙にしている旧小篠亭での撮影の。訥々と語る彼の言葉にピタリと自分の動きが止まる。谷崎潤一郎の随筆「陰翳礼讃」の映像化ドキュメンタリーであった。

日本人の美意識を読み解く名著として海外でも有名な谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」。その作品世界を最新の8K技術を駆使して映像化。90年前に書かれた陰翳の美の世界に迫る。

「われわれ東洋人は何でもない所に陰翳を生ぜしめて、美を創造するのである」。今から90年前に著された谷崎潤一郎の随筆「陰翳礼讃」。光と影という観点から日本人の美意識を読み解いた名著として知られ、日本文化の優れた入門書として海外でも読み継がれてきた。その作品世界を最新の8K映像技術を駆使して映像化。この随筆に影響を受けた現代の作家や文化人たちの作品・語りも織り交ぜつつ、谷崎が愛した美の世界を描く。

https://www4.nhk.or.jp/P6562/x/2021-02-28/48/15053/3151193/

「これだ」

と心がざわめいた。

今まで建築に関しても、音楽に関しても、自分が惹きつけられているのはこの光と影についての「物の見方」だったということだ。日本人だから、というわけではないのかもしれない。日常や心にある「暗さ」を肯定的に捉えて、そこにやすらぎや物事の本質を感じる。一見使いづらいものに思えても、そこに流れている時間や質感を「美」と感じる。

私を形作ってきたものたち。それらが、「陰翳礼讃」の中にある精神性のようなものから影響を受けたもので、いわば二次的に私の感覚が作られていったのではないか。

陰翳礼讃→陰翳礼讃に共感したものたち→その成果物→私のものの見方

と、こんなところ。早速kindleで一読、それも感銘。さらに書店でフォトブックを購入。どこを切り取っても素晴らしい。私は「『陰翳礼讃」の礼賛」の礼賛をしているのだ。

近々、上手くいけば自分の家をもつことができるかもしれない。眺めの良い土地を見つけたからで、これからが楽しみである。生活の中に陰翳(もしくは陰翳に変わるもの)を持ちながら、暮らしていきたいものである。

大学の頃、練習ボックスに夜までいたものだ
地下室だった頃のジョニーはそういう感覚に近い
この小ホールが妙に落ち着く理由が分かった
実家からの景色が私を育んでいったのである

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