音のうねりの中で

大きな音楽のうねりのなか、自分が溶けてなくなっていく。

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先日岩手大学合唱団の記念定期演奏会、無事終えることができました。楽譜に書いてある音楽をきちんと再生する(しかも佐々木先生の指揮で)のはずいぶん久しぶりで、準備には四苦八苦しましたが、良い経験をまた一つさせてもらいました。

ホールで合唱と合わせた時に、耳が痛くなるほどの(それほど刺激から遠ざかり、弱っていたのだと思う)ヴォリュームにまず圧倒されました。すごいものを相手にしなければならない…教育現場「だけ」にいるとこういう感覚って忘れていくのかもしれない。ピアノの席では、大きな音楽のうねりの只中にいます。指揮と伴奏、楽譜とテキスト、音楽的、視覚的情報にあふれていて、この流れをどう生き残るか、本当に選択の連続です。瞬間的な判断力が求められます。

今回の目標は「歌より先に行かない」です。今まで音楽の動きに鈍感(あるいは敏感すぎる)で、ついつい我慢できずに音を出してしまっていたのですが、そういう焦った音楽にならないように、呼吸を合わせて弾いていきたいな、と思いました。前よりは良くなったかな…。録音を聴く限りは…。とんでもないミスタッチもありましたが、今回の演奏会の経験で少しアンテナが復活したような気もします。

声をかけてもらって嬉しい。

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依頼を頂いたのは昨年6月。ヴィヴァルディ「グローリア」の練習ピアニストと、宮沢賢治の詩で林光、鈴木憲夫の合唱曲の伴奏を…とのこと。岩手大学合唱団とは50回記念定期演奏会(つまり20年前。20歳だった)のときの「土の歌」からのご縁なので、やりたい気持ちと、今のところの自信喪失状態の狭間でかなり迷いました。「大丈夫ですよ。一緒に作っていきましょう」という同胞の言葉に後押しされ、引き受けることにしました。

結果的には本当に受けてよかった。OB・OGも集まったので多くの人とも再会できました。これは嘘じゃなく生きていてよかったと思いましたよ。

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終演後のレセプションで自分の口から冒頭の「自分が無くなっていく」経験のことが出てきました(このように挨拶というのは時に自分の意思から離れて話されることがある)。

数珠つなぎでさまざまなことを思い出したので、書き出します。備忘録です。

2003年カンタータ「土の歌」

岩手大学合唱団の伴奏。ドイツ演奏旅行の第九のレセプションで依頼されたのを覚えています。ピアノ版で夏に演奏会の本番。その後半年はオケ版の練習ピアニスト。オーケストラをピアノで弾くことは、自分のルーツと関わりも深く(ドラクエです)、大変刺激になりました。大学生の頃はこのことから伴奏の依頼も多く、独唱の伴奏でもたくさん鍛えられました。楽器ごとの弾き分けとか…

2005年 混声合唱のための童謡メドレー「いつの日か」

こちらも岩手大学合唱団の伴奏。台湾の演奏旅行と姫神ホール、あとは冬の定期演奏会まで。童謡のアレンジものだったのですが、これはジャズを始めポップスを弾いていたことがかなり生かされました。クラシック音楽一辺倒ではない自分のスタイルが肯定的に現れたものです。これ以降はNコンの課題曲なんかは完全にポップス脳で弾いていますね。

2009年、2010年 A Little Jazz Mass

この曲との付き合いは長い。最初は宮古木曜会の伴奏、2010年は城西中学校の伴奏をしました。ボブ・チルコットがジャズのテイストをふんだんに取り入れたミサ曲です。楽譜に明示されている音符と、即興的に弾く音楽との往還が求められ(求められているように読み取った)、今までやってきた音楽をまとめる機会となりました。城西中と神戸の全国大会まで行ったのはいい思い出です。

2014年 青春譜

初任からしばらくは本番でピアノを弾いていませんでした。ジャズはやってましたけど、楽譜を弾くことから離れてしまっていました。仕事に埋没していたということもある。久しぶりにコンクールで伴奏を弾くことになり、全く弾けなくなっている!Nコンの伴奏は弾けても、本格的なクラシックの語法で書かれたものが弾けない!考えさせられた一年でした。最後までこの曲は弾けなかった。

2015年 ロッシーニ「小荘厳ミサ」

グルッペ・ベッヒラインの演奏会で弾きました。これもオケのピアノ版だったのですが、こちらも全然だめでした。本当に劣化している。これじゃだめだ。合唱の伴奏で自信をつけてきたのに…となった。同年ジャズミサも仕事でやっていたのですが、こちらはOK。

2016年 プーランク「Gloria」、シューベルト「Ständchen」、「大地讃頌」

意識的にピアノに触れるようにし、だんだんと復活の兆しを見せてきました。夏のコンクールシーズンではプーランク。こちらは大規模なオーケストラの編曲だったので、フルスコアを見たり、ホールに籠もって練習したり、真正面から取り組んだ感じでした。シューベルトもコンクール(アンコン)。こちらは全国大会も経験させてもらいました。

この年に岩手大学合唱団の記念定期演奏会で「大地讃頌」を弾きました。なんというか、自分のピアノに対する姿勢が2003年当時とまるっきり変わっており、ものすごくハードルの高さを感じました。きれいな音で弾きたい。

2019年マタイ受難曲抜粋

フェラインの伴奏者をさせてもらっている時期がありました。自分の体調も崩していたので、たくさんご迷惑をおかけしながらなんとかついていったかたちです。「マタイへの旅」という企画で、マタイの抜粋を2回本番で弾かせてもらい、幸せな時間でした。第一部を通して弾いたのですが、自分の力不足を実感。しかし、憧れのレチタティーヴォやアリアの伴奏もでき、オルガンとのアンサンブルもでき、かなり鍛えられたと思います。

2023年 ヴィヴァルディ「Gloria」、宮沢賢治の詩によるいくつかの作品

今回です。頑張りました。「Gloria」は「土の歌」の時と同じく自分が弾いていたものが当日にオーケストラになって、とても、なんというか誇らしい気持ちに。

こう見るとさまざまやってきたなぁ。当たり前ですが、もう戻れないんですもんね。

繰り返しになりますが、引退したと思っていた合唱伴奏の世界にもう一度引き入れてくれた合唱団と佐々木正利先生には本当に感謝しています。20年越しのご縁を感じながら。

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